お米でまさかのじんましん事件。

真っ赤なブツブツと赤白混ざった斑点により、全身派手な水玉模様になってしまった時の話です。
 その日は、夕食後に翌日のお弁当のおかずを作っていました。調理に取り分けたものの、ちょっぴり余ったお酒をささっと飲み込んで、さぁあとは片づけてしまおうと洗いものに取り掛かった時です。
 ふと腕の内側が妙に熱いような気がして、不思議に思いながら袖をめくりました。するとそこには、真っ赤な斑模様ととんでもない数のブツブツが浮き出ているではありませんか!あまりの驚きに一声叫んだきり、まじまじと見つめるしかない間にもじわりじわりと熱さと赤い斑模様の範囲は広がっていくのです。こそばゆいような痒みも感じ始めましたが、あまりの見た目に恐ろしくて掻こうとも思えませんでした。
 これまで多少の湿疹等の経験はあれど、これほど劇的な変化をもたらすものは見たことがなく、対処の方法もわかりません。熱さを感じるからと水で冷やしたり氷を用意したりとひとしきりうろたえた後、とっさに思い浮かんだのは実家の母の顔でした。
「お母さんどうしよう!?なんだろうこれ!?熱いし赤い斑点とかすごいゴツゴツして大きい湿疹みたいなのがぶわっと!なにこれ!?」
「うーん?それってじんましんじゃないかしら。写真撮ってメール送ってみてくれる?」
 かなり混乱して支離滅裂に「なにこれ!?」という喚くばかりだったのに、即座に理解してくれた母はやはり頼りになる存在です。
 いったん電話を切り、ひとまず深呼吸してもう一度よく腕を見てみれば、内側全体を赤い斑点だらけにしたもののそれ以上広がる様子はありませんでした。写真を撮ってメールに添付すれば、すぐに折り返してきた母がすっぱりと断言しました。
「うん、じんましんです」
 いつ出たのか、思い当たる原因はないか、直前に何か口にしていないか確認されるうち、はっと思い当たることがひとつ。
「お酒飲んだ!日本酒!」
 まさか、たった一口にも満たない少量で、とは思ったものの、夕食からは1時間以上が経過しており、他に思い当たるものなど何もありませんでした。冷やすと痒みや熱感が少し楽になることや、跡になってしまうから掻かないこと、皮膚科で診察を受けたほうがいいことと、抗アレルギー剤や塗り薬などを処方してくれることなどの説明を受け、お酒は当分控えることを約束し、感謝を伝えて通話を終了しました。
 2〜3時間から長くても6時間くらいで治まると言われたものの、正直半信半疑でした。控えめに言ってもかなり不気味な状態でしたし、ゴツゴツとした硬さも感じるほどのデコボコぶりで、これが本当に治まるのかと不安ばかりが募りました。熱さと痒みでなかなか寝付けないなか、短時間とはいえ睡眠を取ることができた翌朝のことです。両腕ともに、昨夜の激変が嘘のように赤みの名残一つない、まるで何事もなかったかのような状態を取り戻していました。
 お酒さえ飲まなければもう大丈夫、と安心したのもつかのま、ここから悪夢が始まります。
 朝食を食べ終えた直後、再び、今度は腕どころではなく全身に、出てしまったのです。朝食に食べたのはおにぎり、ホットミルク、りんご、ヨーグルト。昨夜のお酒との共通点を考えれば、原因はお米しか考えられませんでした。
 足の甲から手の甲、脚や腕の表裏を問わず、腹や背中も埋め尽くし、首を通り越して頬にまで広がったじんましんはとにかく派手としか言いようがなく、鏡越しに見たとんでもない有様を呆然と見つめるしかありませんでした。

 行きつけの医院で診察を受けた結果、免疫力の低下とそれによる過敏反応が原因であると考えられること、米そのものはもちろん、米が含まれる食品も最低3週間は避けること、体内の残りかすが完全になくなるまで反応が出るだろうこと、それらを早急に排出するべく水分を多く摂り、デトックス効果の高い食物を優先して食べるようにとの指導を受け、痒み止めの塗り薬を処方されました。
 それから1週間ほどは、何か食べるたびにぶわりぶわりと噴き出してくるじんましんに恐々とし、パッと見ぎょっとするような肌色になるため、人目も気になって仕方がありませんでした。食事のたびにぶり返すのが本当につらくて、早く出ないようになってほしくて、抗アレルギー効果があると言われる甘茶を毎日用意して、家でも職場でもずっと飲み続けました。気休めかもしれませんが、少しだけ症状が軽減されたような気がしました。
 症状が落ちついてからは、米成分を含まない食事のレパートリーが非常に限定されてしまうことに嘆きを覚えました。さすが日本人の主食というべきか、米そのものであるご飯はもちろん、お団子など和菓子にも米粉がよく使われていますし、酢などの調味料にまで米が含まれているのです。
 お米大好き、和菓子大好き、酢の物だって大好きなわたしには非常に堪える3週間でした。食べてはいけない、となるとますます食べたくなるのが人の性。そんな時に限って目につくCMはふりかけ、お茶漬け、ちらし寿司。
 じんましんは怖い、しかし米を食べたい。3週間目には米を食べたい欲求が抑えきれず、うわごとのように呟いてしまうことも多々ありました。もはや米を食べられないこと自体がストレスになりつつあり、「米を食べたい」という欲求はどんどん切実になっていきました。そして3週間目の最終日、ついに「じんましんが出てもいいから米を食べたい!!」と吹っ切れてしまったのです。
 いそいそと米をとぎ、久しぶりに取り出した炊飯器を早炊きに設定し、待つこと30分。炊き立てのご飯と、塩を振っただけのおにぎりがとてもおいしくておいしくて、炊いたばかりの2合をぺろりと平らげてしまったほどです。
 幸いじんましんが再発することはなく、翌日の検診ではもちろん叱られてしまいましたが、そのあとで「もう大丈夫だね、良かったね」と言っていただけました。
 もうじんましんはこりごりだと思っていますが、もし次があったとしても米だけは本当に二度と当たらないように、心の底から全力で願っています。